T-cophony
かつてアコースティックギターインスト・シーンでこれだけバラエティに富んだ才能を持ったアーティストがいただろうか。常識を覆す演奏スタイル、ギター以外の各楽器パート、ミックスからマスタリング、そして公開している自身のPVの編集までも全て一人で手がけるその奇才ぶり、アルバムを通して聴いてみると同じアーティストが作った作品とは思えない程幅広い音楽性にきっと誰もが驚かされるだろう。
彼がT-cophonyと言うアーティスト名で活動を始めたのは2005年。知人の進めでインターネット上にアップロードしたと言われる数々の演奏動画、特にアコースティックギターを2本同時に弾いたオリジナル曲"Friendless"(※現在は本人により削除)の動画が世界中のギターフリークの目に留まり瞬く間にその名は広まった。
その翌年2006年に公開された後の代表曲となる"Cycling Road"のPVにより、彼はアコースティックギターシーンで完全に独自のジャンルを確立させた。
ドラム(特にハードロックを連想させるツー・バスなど)やエレキギターによる小刻みなバッキング、そして無機質な電子音から壮大なストリングスまで、そのジャンルでは余りイメージされる事のなかったアンサンブルをふんだんに取り入れた新たな音楽を次々に発表し、型に嵌らない自由なスタイルで若い世代を中心に注目を集める事となった。
同年、FMラジオ"J-WAVE"に生出演しダブルネックアコースティックギター演奏を披露。
インターネット上でのみリリースしていた自主制作アルバムが次第に人気を集め、その反響を受け2008年に全国アルバムデビュー。リリース時には大手レコード販売店HMVのヘッドラインニュースで特集が組まれた。
その年、逗子海岸で開催の人気音楽イベント『音霊』や楽器フェスティバルにヤマハのモニターアーティストとして出演、またUSENが提供する音楽配信サイトOnGen(※2012年1月31日サービス終了)にてレコメンド楽曲としてピックアップされた他、東京ビックサイトで開催された「リテールテック・ジャパン 2008」ではマイクロソフト社のメインステージにて情報端末用のコンテンツとして演奏動画が起用されるなど多くの注目を集めた。
翌年には世界的SNS"MySpace"のトップページで取り上げられ、また一方でYouTubeの公認アーティストとして専用のプレイリストも公開された。
その頃から世界中で彼の楽曲を演奏した動画を投稿するユーザーやフォロワーとして音楽スタイルのみならずPV制作自体も自身で行うインディーズアーティストも現れ、名実共に彼はアコースティックギターミュージック・シーンの先端を行く存在となった。
そして2011年、頑なに拒んでいたTVメディア出演オファーを始めて承諾、11月に全国放送「行列のできる法律相談所」にゲスト出演しダブルネックアコースティックギターを使ってオリジナル曲"Closed"を披露。
放送翌日のYahoo! JAPAN検索ワード総合ランキングでは12位、Google検索ワードランキングは8位に。
またAmazon.co.jp音楽ヒットランキングでは、2010年にリリースしたアルバム"2009-2002"とその翌年リリースの"Unknown Coloration Original"が1位と2位を独占。iTunesでの総合アルバムヒットチャートでもアルバム"2009-2002(EFD)"が最大29位にランクインされるなど大反響があった。 これにより、ネット上の知る人ぞ知る存在から一躍一般にも広く知られる天才アコースティックギタリストとなった。 (Y.村上)
T-cophony OFFICIAL SITE
ARTIST INTERVIEW
●先ず、ギターを始めたきっかけを教えてください。
ある誕生日に父親からエレキギターをプレゼントされ、その時は全く興味が無くて直ぐにクローゼットの裏に閉まってしまったのですが、何年も過ぎた13歳のある日偶々埃塗れのそれを見つけて「このまま一生触らないのは申し訳ない」と思って、触ったのがきっかけです。
●それを機にのめり込んだ感じ?
そうですね、ギターを触ってからは毎日の様に良いメロディを探してました。
●ギター演奏はどうやって覚えましたか?
初めに父親からチューニングの合わせ方とコードを5つくらい教わりました。あとは、持っていた様々なアーティスト(バンド)の音源やライブ映像を適当に真似て覚えました。
●その頃はどんな音楽を聴いてましたか?
当時(90年代後期)のオルタナティブロックが中心です。平行してエレクトロニカやアンビエントも聴いてました。
●と言う事はそれが最も影響を受けた音楽?
そうです。あとは、小さい頃から常に両親がブルースや、ハードロック、ポップス等を流していたので、それらが先ずベースになっていると思います。それとトラッドやクラシックなども聴いていました。
●エレキギターから曲作りを始めたわけだけど、何故アコースティックギターをメインにする様になったのですか?きっかけは?
きっかけは単にエレキが頻繁に壊れるのに嫌気がさしただけです。例えばシールドを挿しても音が出なかったりで、終いにはアンプに通さずそのまま弾いてました。 いい加減に新しいやつを買いに行こうって、楽器屋に行ったらアコギがあって、そのままでも音が出るからこれで良いやって感じで。
●でもエレキとアコギでは全く表現のアプローチが違いますよね?
元々エレキでは、大まかにピックで弾く曲とタッピングで完結する曲の2種類を作ってて、後者は歪まして弾くよりアコギの様なクリーンな音の方が合ってたので直ぐに対応出来ました。 ギターを始めた頃から適当にチューニングをいじって、変則的な和音に合わせることが多かったせいかタッピングも開放弦を活かしたものが好きだったのでマッチしたんだと思います。
因みにアコギを手に入れた後、暫く経って何故かエレキの調子が急に良くなったので結果、両方使って曲作りが出来る様になりあの時アコギに決めて正解だったって思いました(笑)
●今アコギでやってる独特なタッピングプレイは元々はエレキでやってたって事ですか?
はい、タッピング自体はギターを始めた頃から、ハードロック系のギタリストが多様してるのを見ていたので特別な奏法には感じませんでした。 エレクトロニカやテクノなんかに近い無機質なループプレイも出来るので、そう言ったニュアンスの曲にも頻繁に取り入れてました。
●アコギ系のギタリストに影響を受けたりは?
アコギを始めた当時は全くそっちのジャンルを知らなくて、興味すらありませんでした。でもある日友人にプレイを見せたら、「そう言う感じの演奏スタイルは沢山あるよ」って色々紹介されてそっちのジャンルも徐々に知る様になりました。特にボディをドラムの様にリズミカルに叩いたりするクールなプレイを初めて見た時は興奮しました。 そう言った事もあって、自分の中でも完全にアコギに適応したスタイルが出来たんだと思います。
ただ、様々な音色やアンサンブルが好きなのでアコギインスト(アコギ1本の曲)を聴く事には、余りはまりませんでした。膨大な曲が入ってるmp3プレイヤーの中にも殆ど入っていません。
●ギター自体、あと演奏にも特に拘りはないと聞いたのですが?
元々、ギタリストになりたかったわけでもなければ上手なプレイヤーも目指していません。
確かにギターの音は好きですが、その曲の雰囲気に合っていなければ全く使わないし、皆が思うほどギター好きと言うわけでもないです。
気分がのらなければ1ヶ月以上ギターに触れないこともよくあるし...
凄腕ギタリストとして言われる事は光栄ですが、単に自分が最も弾き易かったのが今のスタイルだっただけなので別に難しい事をやってるつもりもありません。
●多くのファンが気になっていると思うけど、何故顔を隠すのですか?
恥ずかしいのもそうですが、元々曲だけを広めたかったので顔を覚えてもらう必要はないと思いました。
例えばクラシックの有名曲でも、作曲者の顔までは余り覚えてる人はいないって事がよくあります。そう言う感じが良いです。漫画家みたいなのも理想ですね。
でも一番の理由は自分の容姿が好きじゃないから、画面に映った自分を客観視するのが嫌で顔は隠してます。
本来は演奏している姿も隠したいくらいですが、ライブを殆どしないのでパフォーマンスを期待してる人への唯一のファンサービスで公開してます。
●でも何故ジャケットや一部で公開を?
ネットに演奏をアップした当初は横顔すら出す事なく映像も切っていたのですが、頻繁に音楽以外のそれに対する批判的なコメントやメッセージがあって。
あと友人や関係者からも、出す事を勧められ少しは公開する事に決めました。そのおかげで今は音楽そのものだけを評価される様になりました。
最近ではPVでも少しは出す様にしてます。その方が自然だと思うので。
確かに自分も、お気に入りの曲を見つけた時どんな人が作ったか気になるし、余り隠し過ぎるのもちょっと不審かなって(笑)
●そう言えば、PVの他にデモ演奏動画(固定したカメラの前で弾いてる)を多数公開してるけど、あれはやはりテクニックを見て貰いたいから?
一番は、自分自身が演奏の仕方を忘れない様にする為に演奏メインの動画を公開してます。基本的に楽譜を書いたりはしていないので、よく後から見て思い出したりします。 それとパフォーマンスがきっかけで自分の音楽に興味を持って貰えることも多いので、Web上に載せる事で一石二鳥になってます。
●話にも出たライブをしない理由は?
それをすると多くの人と関わらなくてはならないので、そう言ったのが面倒くさくて余程気が向かないとやりません。
音楽の上でリアルな関わりは極力避けたいです。横繋がりも持ちたくないし。
作品だけを広めたいのでパフォーマー自体にも今は余り興味ありません。
●では路上ライブなども全く興味はない?
これは個人的な考えですが、道を歩いている時、大抵耳の中には好きな音楽が鳴っています。その雰囲気に合ったやつが。
そこへ突然、全く希望しない別の音楽が入ってきます。そうやって人を悲しませたくないので...(苦笑)
でも別に反対はしていません。それによって逆に幸せな気分になる人も沢山いるので。
●ギタークリニック(演奏のレクチャー)的なものにも興味はありませんか?
ダリやピカソがわざわざ、「この作品は先ず赤と黄色を足して、この部分に薄く塗って...」なんて言わないのと同じです。これも個人的な考えです。
●コピーやカバーされる事は余り好きではない?
いいえ、それは違います。自分が適当に作った曲をその人が貴重な時間をかけて分析してくれてるわけだから凄く光栄に思います。
●貴方は自分の普段聴くBGMの為に曲を作ってると言っていましたが、それは具体的に?
たった今いるここも、ある曲を流せば一瞬で時も場所も変えられます。
感情のアップダウンが激しいので、そうやって音楽を聴いて気分や環境をコントロールさせます。他人の曲でもそれは出来るけど、自分で作った方がもっとその世界に入り易いので。
曲自体も、悲しい時には明るい曲を聴けば良いみたいな単純なものではなくて、時には別のイメージの悲しい曲を聴いて、今の感情から抜け出せる場合もあります。 一番良いのは悲しいのか楽しいのか分からない雰囲気の曲が一番入り込み易いです。そう言う曲を自分ではいつも作りたいと思ってます。
●何故、それらを作品としてリリースする事にしたのですか?
先ず、リリースすれば一生残せると思ったからです。当時沢山のオリジナルトラックが入ったMDがエラーで消えてしまってショックを受けて...
コピーを沢山作れば良いことですが、それよりもこっちの方が効率的な方法だと思いました。
当然ビジネス的な目的もありますが、何より今この瞬間にも、世界のどこかで自分の感情(作品)が共有されているかもしれないと思うと何より興奮します。
普通じゃ得られない多くを得られたのでこの選択は間違っていなかったと思います。
●今後は?
まだ公開していない多くのトラックがあるので、それらをちゃんと完成させて発表したいです。
あと消えてしまった昔の作品も思い出せたら...
●ライブの予定は?(笑)
いきなりやるかもしれません。いつも告知はしないので。
●最後にファンに一言お願いします。
残念ながら常に失望させる可能性があります。だから余り期待はしないで(苦笑)
( 2011 インタビュー:ウィーン林 )